黒部源流の名渓を遡る


日程 2008年8月30日(土)〜9月1日(月) テント(小屋)2泊
メンバー 渡邉元(L)、松平、堤、井上
山域 北アルプス 黒部川水系 赤木沢
交通 往路:マイカー 復路:マイカー
想像以上の美渓に大満足の3人

ルート
折立 → 太郎坂 → 太郎平小屋 → 薬師峠キャンプ場(泊) → 太郎平小屋 → 薬師沢小屋 → 奥ノ廊下 → 赤木沢 → 赤木岳 → 北ノ俣岳 → 太郎平小屋 → 薬師峠キャンプ場(泊) → 太郎平小屋 → 太郎坂 → 折立


  8/30〜9/1、黒部源流の名渓、赤木沢を遡行してきました。同日に予定されていた、おでんハイクをすっぽかしての山行。赤木沢の遡行経験がないメンバーが集まり、遡行を決行しました。今回の計画は若輩ながら私がリーダーです。直前にサブリーダーをお願いしていた佐藤さんの不参加が決まり、私+女性陣3名という布陣に。あぁ、リーダーの重責が。。。ですが、赤木沢はメンバーみんな(オレも含めて)の憧憬の地だった、何としても遡行したい!(中には3度目の正直というメンバーも)という強いモチベーションが成功の要因となりました。悪条件でしたが、入渓当日に沢の状態を肉眼で確信した上で判断するという点では、メンバー全員の確固たるコンセンサスがバッチリとれていました。もし初日の豪雨にへこたれて引き返すという選択肢をとってたら、この成功はありませんでした。


 8/29、佐藤さんにお借りしたオデッセイでメンバー各自をピックアップ。21:00過ぎに東京を出発。大雨洪水警報の通り、次第に雨脚が強くなり、断続的に雷鳴が轟いている中、中央道をひた走る。


 8/30、2:00過ぎに上宝の道の駅に到着。暫しの仮眠をとり、6:00前に折立へ向けて再び走り出す。雨は止んでいるが、辺りにはガスが漂っている。7:30、有峰林道の終着点、折立へ到着。準備を整え、太郎坂を歩き出す。テント2泊分の個人装備に、沢装備、テント、ザイル、登攀具を入れたザックが重い!この時点では太陽も顔を出しており、急坂で汗が一気に吹き出る。小一時間も歩くと、大きな雨粒が落ちてきた。やがて本降りとなり、仕方なく雨具を着る。雨脚が衰えることは一向になく、時間の経過と共に雨は激しさを増す。森林限界を超えて、吹き曝しの稜線へ。石畳の上を雨水が川のように流れていく。全身ビショ濡れ。水を含んだザックは一段と重みを増す。太郎平の小屋へ避難する。小屋のご好意で乾燥室をお借りし、濡れた衣服を乾かす。沢の状況と明日の天気予報を確認すると、どうやら明日も今日と同じような状況らしい。小屋の屋根を叩く雨音はさらに激しく。雨脚が弱まった一時を見て、薬師峠キャンプ場へ移動。素早くテントを張るが、太郎平から薬師峠への移動だけで再びビショ濡れに。お姉さま方3名は薬師沢小屋に避難。今日はオレだけがテントに泊まる。とにかく寒く、濡れた衣服のままでは震えが止まらず、火を焚かずにはいられない。19:00頃になると、雨音が止んだ。明日の入渓を半ば諦めかけていたが、少しは光明が残された。メンバーの気持ちは言葉にせずとも伝わってくるので、何としても遡行を成功させたい!テントの中には水溜りができているが、明日の好天を信じてシュラフに潜ることにした。どうやらこの日は、北陸地方ではこの夏でイチバンの雨量を記録したようだ。


  8/31、3:00前に起床。フライシートを叩く雨音に起こされた。沢の状況は想像もできないが、薬師沢小屋で待つメンバーと合流するため、4:30にテントを発つことになっている。テント内部にできた水溜りもほったらかしに、沢の装備をザックに押し込め、テントの外に出てみると、星空と富山の街明かりが煌々としている!豪雨の中、歩を進めてきた甲斐があった。そうです、リーダーは相当な晴れ男なんです。夜明け前の暗闇の中、足取りも軽く、仲間が待つ薬師沢小屋を目指して駆け下る!6:00前に薬師沢小屋に到着すると、小屋に泊まったメンバーは既に身支度を整え、私を待ち構えていた。先行するガイド登山のパーティーを見送った後、薬師沢小屋のテラスからハシゴを下り、黒部川本流に入渓。サブリーダー不在のため、隊列をどうするか考えたが、トップは松平さんと堤さんに任せて、私が最後尾からパーティー全体をフォローしつつ、滝の直登やゴルジュのへつり等、ちょっと怪しげなところではトップに躍り出て先陣を切ることにした。要するに美味しいとこ取りです。昨日の大雨の影響で、増水とまではいわないまでも黒部川の水量はかなり多い。遡行ガイド本には幾度かの渡渉が示されていたが、無作為に渡渉できるような水量ではない。渡渉をできる限り避けるため、左岸の水線を忠実に辿る方法を選択。渡渉を行い水流の中央で足を掬われるより、へつって水流の端で足を掬われる方がリスクが低い。当然、渡渉や高巻きを最小限に抑えた方が遡行時間の短縮にも繋がる。岩魚止ノ滝を高巻くと、間もなく赤木沢出合へ。出合のゴルジュを左岸から更に高巻き、降り立ったところが赤木沢である。赤木沢はナメから始まり、すぐに右岸からウマ沢を合わせる。名の通りか、沢床は赤い色をしている。明るい針葉樹林帯に斜瀑が延々と続く。流水はどこまでも透き通り、名渓の名に恥じず、素晴らしい渓谷美。五段ノ滝では遭難事故の現場に居合わせてしまった。草付の高巻で滑落し、顎の骨と歯を折ったようだ。周囲には血染めのタオルが置いてあり、ケガ人はツェルトに包まって震えている。先行パーティーに救助要請を依頼し、ヘリ救助を待っているとのこと。滑りやすい草付の急斜面を気をつけて高巻く。その後も、階段状の滝が無数に続く。水量が多いだけに迫力も充分。30m直瀑の大滝が見えると源頭は近い。大滝は左岸から高巻く。源頭に近付くと、救助ヘリがやってきた。どうやら遭難者は無事に収容されたようで一安心。さて、水線から北へ外れるショートカットルートもあったようだが、源頭まで忠実に詰め上がった。水が涸れると、ここからは広大な草原歩き。晩夏の花がフィナーレに彩りを添える。北アルプスの峰々に祝福されて、赤木岳手前のコルを目指す。13:45、稜線に到着。次第にガスが増えてきているが、夕立の心配はなさそうだ。薬師岳を遠景にどこまでも続くなだらかなプロムナード。稜線は既にイワウチワの草黄葉に彩られ、すっかり秋の雰囲気を漂わせていた。赤木岳、北ノ俣岳のピークを踏み、16:45に太郎平小屋に到着。小屋で買った缶ビールで祝杯を揚げる。今夜は松平さん、堤さん、私が薬師峠にテント泊、井上さんが太郎平小屋に宿泊。明日は帰りがけに太郎沢を遡行する予定だが、翌朝の時点でメンバーの消耗具合を鑑みて、どうするか判断することにした。


岩場を下降する井上さん
奥ノ廊下へ入渓
黒部川本流を遡る
豊富な水量が渡渉を阻む
赤木沢出合のゴルジュ
黒部川本流から赤木沢へ
リーダーとして先陣を切る
次々と現れる斜瀑
秋はもうすぐそこに
連瀑の中にルートを探す
五段ノ滝の直瀑
五段ノ滝を高巻く
延々と斜爆が続く
釜を従えたトイ状の滝
滝を攀じる井上さん
高度と共に透明度を増す瀞
水線に沿ってどこまでも
階段状の滝の前で記念撮影
遡っても衰えぬ水量
トップを往く松平さん
大滝、30m直瀑
大滝を左岸から高巻く
大草原を詰める井上さんと私
赤木平、薬師岳、赤牛岳
稜線を彩る草黄葉
太郎平から見る水晶岳


薬師峠からの夕景

  9/1、今日は太郎沢を遡行した後、折立へ下山する予定。太郎沢は1時間半程度で遡行を終えられる短い沢で、太郎平小屋スタッフのプレイグラウンドになっているようだ。雰囲気はプチ赤木沢とのこと。太郎平より薬師沢小屋へと向かう第一渡渉点より左俣へ入渓する。4:00に起床し、メンバー各々の消耗具合を確認する。昨日の行動時間は10時間を超えており(私は12時間超え)、各自の体力およびモチベーションも下がっているため、今回は太郎沢遡行をパスしてそのまま折立へ下山することにした。(とはいえ、リーダーは行く気満々でした)赤木沢というメインディッシュで満腹になってしまい、デザートの太郎沢は別腹というわけにはいかなかった。というわけで、今日は時間に余裕がある山の朝。爽やかな青空の下、8:30前に撤収を開始。東方には読売新道や裏銀座の峰々が城壁のように立ち並んでいる。好天だけに下山が名残惜しい。9:00前に太郎平小屋に到着。小屋のスタッフはこれから太郎沢へ向かうらしい。話によると、太郎沢、薬師沢左俣とも、赤木沢とさほど変わらぬ難度とのこと。来年にでもまた来ることにしよう。折立へ向かって太郎坂の木道を下りだす。右手には鍬崎山、大日三山、剱岳の山稜が眩しかった。ナナカマドの葉は紅く染まり、ゴゼンタチバナは紅い実を携えている。秋の気配をすぐ隣に感じながらの下山となった。12:00過ぎに折立へ無事帰着。新平湯温泉で汗を流し、平湯で打ち上げ&松平さん誕生会。飛騨牛ごちそうさまでした!



黒部川本流のへつり


赤木沢連瀑帯の登り


赤木沢連瀑帯の登り


 というわけで、20代最後の夏を最高の山行で締めくくることができました。赤木沢は想像以上の美渓だったし、名ばかりながらも悪条件の中のリーダーだっただけに、喜びもひとしおです。メンバー全員が充足した顔で家路に至る、これこそリーダー冥利に尽きますね!繰り返しますが、今回の山行の成功の要因は「どうしても赤木沢に行きたい!」という点で、メンバー全員の意思が集約できていたことでした。様々な面でサポート頂いた松平さん、堤さん、井上さん、そして不参加ながらマイカーを提供頂いた佐藤さん、ありがとうございました。来年以降はおでんハイクが廃止?になるという噂もあるので、8月末の恒例山行として、また「日本アルプスの沢」を計画したいと思います。シリーズ化できたらいいなぁ。太郎沢&薬師沢(北ア)か、シレイ沢(南ア)あたりを考えています。よろしくお願いいたします。


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