気象予報士野尻英一先生の寄稿文です 天気予報が外れた11月10日の雁ヶ腹摺山の観天望気ハイキング
まず、この日の天気図を3時間おきに並べてみました。寒冷前線は朝6時には関東の東海上に出て弱まり、12時には天気図から消えました。その後に西から張り出してくるはずの高気圧はほとんど動くことなく、日本列島に張り出してくることもありませんでした。 というわけで10日の昼間ははっきりした前線や低気圧もなければ、高気圧の張り出しも弱いということで、はっきりしない気圧配置です。こういうときの天気は局地的に発生する小さな規模の低気圧や前線の影響が優先しがちになります。10日も昼間は山は曇って、夜は東京で小雨だったので、山梨県から関東のあたりに小さな低気圧があったのかもしれませんが、天気図にはそれらしい低気圧も前線も書かれていません。しかし、天気図をよくみると15時の天気図では等圧線が関東の東海上から関東の上まで膨らむように描かれており、これが弱い低気圧とみえないこともありません。 天気図でよくわからなかったので、気象台の観測データを調べてみました。気圧の変化をみるために東京と甲府の気象台の気圧を、上空の寒気の様子を知るために富士山の気温を、それぞれ10分間隔でグラフにしてみました。
東京の気圧も甲府の気圧も寒冷前線が通過した午前3〜6時頃に気圧が下がっています。その後は気圧が上昇しますが、9時頃からは再び気圧が下がりました。午後2時からはまた気圧が上がっていますので、どうも、寒冷前線の後ろに小さな低気圧か2本目の寒冷前線といった気圧の谷があったことがわかります。 気圧の下がり方は2回目の方が大きいので、後から現れた気圧の谷の方が、天気図に描いてあった朝に通過した前線より影響力が大きかったのかもしれません. 富士山の気温をみると、1本目の寒冷前線が通過した朝方は気温が乱高下しており、暖気と寒気が入り乱れています。本来は、寒冷前線の通過前は気温が上がり、通過すると気温が降下しますが、それがはっきり表れていません。むしろ午後は4時頃を境に気温の上昇と低下がはっきりしていて寒冷前線が通過したイメージが強いです。
つまり、 @ 10時頃に山梨に2本目の寒冷前線か小さな低気圧が近づいてきて A 甲府付近を午後2時ごろ通過し、大月付近を午後3時から4時頃に通過、 B その後午後8時ごろに東京を通り過ぎたように考えられます。 そのため、雁が腹摺山は曇になり、東京は夜に小雨になったものと思います。 気象台の天気予報も、私の予想も外れてしまいました。(ちなみに、天気図に描かれている寒冷前線の後ろに第2の寒冷前線があるのは、しばしばみられる現象です。この第2の寒冷前線は気象庁の天気図には描かれないので、あるかどうかは自分で判断する必要があります。第2の寒冷前線があるときは、天気図に描いてある1本目の前線より2本目の方が影響が大きくなる場合も多いと言われています。) 天気予報が外れたので、今回の観天望気山行は「山の現地の天気が天気予報通りにならない時にどう判断するか」というケースになりました。 山の状況を振り返ってみると、雁が腹摺山に登る途中で雲が増えてきて、山頂で休憩している間に下から上昇気流で雲が上がってきました。朝になってから天気が良くなるときには、太陽の日差しで温められて上昇気流が起きることはよくあるので、天気が良くなる兆しと思ってしまいましたが、実は2本目の前線がその原因だったわけです。大峠や雁が腹摺山で高度計を確認したところ気圧は上昇していたので、いかにも高気圧が張り出してように考えられたので見逃してしまったのですが、今思えば、雲が吹き上がる速さがとても速かったので、それで第2の寒冷前線の存在に気付くこともできたかな、と思っています。事実、今回の参加者の中にも雲の吹き上がり方や雲の色(真っ白ではなくグレーがかかっていた)から異常に気が付いていた方がいらっしゃいましたが、とてもすばらしい感覚だと思います。
このときは、ちょっとした晴れ間から雲がそれほど厚くないことが見て取れたので、雨になることはないだろう、降ってもポツポツ程度だろう、との判断ができました。また、下からさらに霧や雲が活発に吹き上がってくるようですと本降りの雨を覚悟しないといけませんが、このときはそういうことはありませんでした。時折、霧が晴れると下の方に黄金色のカラマツ林が見えてきれいで、雲や霧がたくさん吹きあがる気配はありませんでした。 金山鉱泉への最後の下りは、金山峠から廃道の谷下りになりましたが、本降りの雨になりそうだったらこの近道を採用することはできません。私が1997年に通った時は歩きやすい山道で金山鉱泉までさっと歩けましたが、その後20年の間に大雨で土砂崩れがあちこちで起きたのでしょう。まだ固まりきっていない斜面や土砂のかたまりが随所にありました。奥秩父や中央線沿線、大菩薩の山は戦後復興のために森が伐採された場所が多く、その後保水力が弱くなった斜面が雨で崩れたところが意外にたくさんあります。そういう場所はいまだに安定度が悪いので、雨が降っていたり、本降りになりそうなときは注意したいと思います。今回の山行のラストはコケの濡れた荒れた滑りそうな林道で、あまり気持ちいいものではありませんでしたが、全員無事に金山鉱泉に下山できました。 今回の山行は天気予報がはずれたり、その理由がすぐにわからなかったので、皆様に十分に要点を説明することができず残念でした。私なりに振り返ってみましたので、ご参考になれば幸いです。私としては、晴れの予報を信じすぎ(過信して)、それに自信を持ちすぎていたことが反省点です。山では予報が外れることも多いので、いつも謙虚に実際の天気を見つめていないといけないということを、あらためて肝に銘じたいと思っております。 山に登るたびに新しい発見があり、こんな注意点があったのかと反省することもたくさんあります。今回も、新たにわかったこともありました。大月での反省会も含め、品川さんかくてんの皆様とたいへん有意義で楽しい山行ができました。あらためてお礼申し上げたいと思っております。
|
気象予報士野尻英一氏を講師に迎えて 気象ハイキング 雁ヶ腹摺山1874m 期 日:2018.11.10 参加者:講師 野尻英一氏、L佐藤、三戸、上野、川田、宇留野(目黒ハイク)、桑村、松平、高橋、吉岡、渡邊美、福井、渡辺綺、松下、矢沢、今岡(計16名 タイム: 大月駅8:15集合 8:38(タクシー発)──9:03大峠(説明とストレッチ)9:16出発──10:55雁ヶ腹摺山11:20──12:05白樺平──12:35姥子山52──13:02林道歩き8分──13:59林道出合──14:18百闃ア場──14:29金山峠の標識──急な尾根を下り沢筋を通る悪路──15:45金山鉱泉 タクシー乗車16:55 16:10大月駅 駅前濱野屋で反省会
ところが地図上の金山峠の手前の鞍部に立派な金山峠標識と金山温泉への道標があり、沢に向かう急な小さな尾根に立派な道がついています。ここに道がある事は把握していましたが、尾根筋ルートと違って山のガイドや地図には記載されていません。金山鉱泉でのタクシーの予約時間は15:30〜16:00です。
野尻先生から数日後、丁寧にこの山行の天気の分析を頂いていますので参考にして下さい。会報11月号に掲載されています。 野尻先生からは近い機会をとらえて「雪山に入る方の為に、注意点とポイント」を皆様にお話ししたいとの事です。(佐藤) |