剱岳山行(別山(べっさん)尾根(おね)コース)報告書

If you can dream it, you can do it.



参加者
  飯嶋、三戸、福井、渡辺綺、関山()
山行日・コースタイム


8/24() 夜行バス/新宿23:00発→室堂ターミナル7:00

8/25() 室堂ターミナル7:45→雷鳥平8:40→別山乗越10:50剣山荘12:05

8/26() 剣山荘5:55→一服剱6:30→大岩7:10→前剱7:308:30平蔵のコル8:55→早月尾根分岐9:259:30剱岳10:05
     10:15
カニのよこばい10:25→平蔵のコル10:4011:35前剱11:50剣山荘13:05

8/27() 剣山荘5:50→剱澤小屋6:207:30別山乗越7:409:00雷鳥平9:1010::30みくりが温泉11:50室堂ターミナル12:10
    12:30発→新宿21:00

ぼくは現役時代は、やりがいのある仕事に巡り合って、全力投球をしてくることができた。一方、子どもたちの育児や家庭のことはほったらかしにしてキャサリンにまかせっきりにして、人生の設計図なしに生きて来てしまった。個人差はあるものの、人間は60歳位までは人生の設計図なしに生きていけるようだが、ぼくは自分の人生をデザインしないままに歳を重ねてしまった。

人には生きてきた道とこれから行く道がある。生きてきた道、歩んできた道にもしやり残しがあると気がついた時には、今からそれを補うような努力をすればいい。忘れていたことは思い出して、これからの糧にすればいい。これから歩む道にはビジョンを持ち、今まで以上に「夢」に向かって進もうという強い精神で臨もうと思っている。

山崎拓巳の本に、こんな言葉があった。

 二人の男がレンガを積んでいた。

 「きみたちはなにをしているのだ」とたずねると、

 一人は「レンガを積んでいるんだ」と答えた。

 もう一人は「教会を造っているんだ」と答えた。

 そして二人の未来は、まったく違うものになった。

目の前のことばかりに気を取られていると、いつの間にか「虫の目」になる。虫には木しか見えないが、鳥には森が見えている。「鳥の目」を使って、いちど空から自分の姿を確認してみよう。ぼくはこれからの人生を、遅まきながらデザインして活き活きと暮らして行きたいと思っている。

 

この剱岳登頂の設計図はちょうど一年前のそのように思っていた時にデザインしたものです。この山は日本国内で危険度の最も高い山と言われ、その険しさと美しさゆえにアルピニストならずとも憧れの山であり、ぼくも漠然といつか登ってみたいと思っていた。

2ルートのイメージ写真@

 

 

しかし、気づけば高齢となっていて、最早この今を逃してはぼくたち(三戸と関山)は登頂する機会がなくなると判断し、一年の準備期間を設けて挑戦することにした。計画の途中に前立腺癌の全摘手術で10日間程入院し、デザインの一部を変更したりしながらも、岩稜帯歩行や岩壁登攀の訓練山行などを多くの先輩諸兄姉の協力を得て行い、岩登りの技術を教わってそれなりの準備をして、やるだけのことをやってきた。


メンバーには、両ひざ関節を手術して人工骨にした後も積極的に多くのハードな登山を実践している飯嶋さん、大動脈解離症を発症し治療を続けて回復後も多くの山行に参加している綺子さん、左手関節部骨折をした後も自ら岩山山行をいくつも計画し実践してきた三戸さん、そして、いつもさわやかで何事にも慎重で且つ大胆でタフな若手の福井さんに参加をしていただき、それらの障害を乗り越えて、又更なるレベルアップを目指して、剱岳の登頂に挑みました。

 

2ルートのイメージ写真A 前剱からの立山方面

この険しい要塞のようにそびえる剱岳の一般登山道は、「別山(べっさん)尾根コース」と「(はや)(つき)尾根コース」の2本の険しい登路しかありません。この2本の登山道を2つのチームが別々に登って山頂を攻略し、その後剱澤小屋と剣山荘の周辺で会う計画も企てていました。多くの名だたる難所が立ちふさがる険路が連続する「a別山尾根コース」を行く私たちの5人パーティーと馬場島登山口から頂上まで標高差2,200mを超える北アルプス屈指の長大で急登の続く「b早月尾根コース」を行く堤、渡邉美、吉岡、松尾、金子の5人パーティーだ。山頂アタックは、bパーティーは8/25でaパーティーの8/26に比し1日早く、aが山頂をアタックして宿泊先の剱澤小屋に着くまでの剣山荘との間で落ち合うことにしていた。

【1日目】8/25

 

夜行バスから降り立った室堂の朝は、ガスって見透しが悪く風もあり寒い。ガスの切れ間から陽が射すこともあるが、立山の稜線がシルエットとなってなかなか現れることはなく、防寒着を着て飯嶋さんが先導役になって登山を開始した。

バスを降り立った室堂

 

 

よく整備された石畳の散策路を進み、ミクリガ池、地獄谷を過ぎ、立山三山の登頂を終えたツアーの下山者たちと長い長い階段ですれ違いながら雷鳥沢キャンプ場に下った。次第に天気が快方に向かいガスが晴れ、陽射しも射すようになって来た。道中、地獄谷から発生した火山ガスの硫黄臭が強かった。テント場には90張程度があったが人影をあまり見かけなかった。キャンプ場から称名川源流に架かる小さな橋を渡って雷鳥坂の登山道に入り、ここから別山乗越までの標高差500m、歩行約2時間の行程をひたすら登った。浮石などのある岩稜帯からハイマツ帯を抜けつづら折の道を登ると別山乗越に着いた。

ここには剱御前小舎と公衆トイレが建ち、3つのルートがある。
1)右手側に進むと別山から雄山へ連なるルート。
2)剱御前の東斜面をトラバースして剣山荘に向かうルート。
3)剱沢キャンプ場を経由して剱澤小屋、剣山荘に下るルートです。
予定より早く歩けているので剱澤小屋を経由せずに2)のルートで剣山荘に向かいそこで早月尾根コースから登頂を目指し、下山してくる5人と落ち合うことにした。


選択した2)のルートは岩稜帯が続き、大きなゴロゴロした岩場もあり、又小さな雪渓を横切ることもあって、転倒に注意をしながら歩行し、やがて本日の宿泊先の剣山荘に着いた(12:05)。室堂から4時間30分、剱御前小舎から1時間10分の行程だった。

小屋では五畳の部屋があてがわれ、荷物を運び入れて明日のパッキングもそこそこに、明日の登頂の成功を祈って成就祈願の乾杯をした。

 

成就祈願

地酒をぐいと呷りながら会話も弾みご機嫌になっているところに、無事登頂を終えた堤パーティが到着し、剣山荘の玄関前で合同の記念写真を撮って、堤パーティは宿泊先の剱沢小屋に向かった。登頂の成功を祝す言葉と激励の言葉を交わす出合となった。

早月尾根コースのメンバーと合流しました。

 

疲労の中にも成し遂げた喜びに満ちていた。一方、ぼくたちは夕食の席について、ハンバーグ、えびフライ、ポテトサラダなどのご馳走をいただきながら、明日の登頂の旅立ちに夢を膨らませた。山小屋の混雑具合やテント場(雷鳥沢・剱沢キャンプ場)のテント数や平日であること、アタック後は又小屋に戻ればいいこと、などを総合的に判断して、早朝に発つリスキーな暗闇歩行を避け、朝食をしっかり摂って、明日の出発は急がず6時に決めた。荷を軽くしたパッキングにして、床についた。

 

五竜岳と猿ュ島槍ヶ岳の間から昇ったご来光に手を合わせました。

【2日目】8/26

 

多くの登山者が4:00頃にバタバタと出発する中、朝食を摂り(焼鮭、玉子焼、ソーセージ、海苔、野菜・・)、トイレを済ませていよいよ5:55に出発だ!



ヘルメットを被った皆はいい顔をしている。何とも言えない爽快な緊張感が漂っている。立派なクライマーのいでたちだ。

登頂に向け出発

 

 

小屋裏にある登山道を一服剱に向け登山を開始した。剱岳山頂までのこのルートには13ケ所に鎖場があり、番号が書かれた金属製のプレートが岩に取り付けられている。一服剱までの間にも2ケ所の鎖場があるが、鎖を使わずに三点支持で容易に通過できた。本峰に向けての岩場歩行の良い訓練の場だ。


まもなく一服剱のトップに登ると前剱が大きく立ちはだかる迫力のある姿を見せた。そして、武蔵のコルに下り、再び登りとなりB番の連続する鎖場の大岩を通過して、一旦稜線に出ると前剱が更に迫力を増して目の前に現れた。

 

一服剱からの剣山荘を振り返る

 

いよいよ挑戦の日がやってきた。五竜岳と鹿島槍ヶ岳の間から昇ったご来光に手を合わせ、登山の無事と登頂の成就祈願をした。天気良好(快晴微風)、体調は絶好調、そしていつにない快便!

 

稜線の右側に回り込んでC番鎖場を登ると前剱頂上だ。稜線上を少し下ると4mの金属製の細いブリッジが現れ、注意して渡るとD番の鎖場となり岩を右に回り込むとE番の鎖場となり稜線上に出る。

そして少し下ると前剱の門という狭い鞍部に出た。鞍部からは比較的歩きやすい登りが続くが、やがて「平蔵のF番の鎖場となる。足場となる2本の鉄筋が岩に打ち込まれているが、3歩目の足場がなかなか見つからず足を大きく開いて上の方に伸ばして足場を確保して登り、稜線を横切って壁面を下るとG番の鎖場となり、ここを通過して少し下ると平蔵のコルだ。

ここは、H番の鎖場「カニのたてばい」の取付きで少し広くなっていて、順番を待つ登山者が並んで混雑していた。私たちも25分程順番を待って、約50m、斜度70度の岩壁の難所を登り始めた。

 

ここは、H番の鎖場「カニのたてばい」の取付きで少し広くなっていて、順番を待つ登山者が並んで混雑していた。

私たちも25分程順番を待って、約50m、斜度70度の岩壁の難所を登り始めた。


飯嶋、三戸、綺子、関山、福井と続いて行きます。鎖に頼らなくても登れるケ所はあったが、鎖を掴んで高度感を見ないように前方を見て必死で登った。この鎖場が登りのルートで最後の核心部です。


 

カニのたてばい

 

ここからはゴロゴロした傾斜のきつくない岩場を、早月尾根分岐を経由して山頂に向かった。憧れた山頂に着く(9:30)と多くの登山者がいて、登頂を喜んでいた。

剣山荘を出発して3時間35分の行程でした。

祠の前で写真を撮り、360度の大パノラマを楽しみました。感動に酔いしれて、皆寡黙です。あまり写真を撮らずに景色を眺めてぼーっとしてしまいました。

35分程頂上に滞在して10:05下山です。

剱岳山頂。祠の前で写真を撮り、360度の大パノラマを楽しみました。

 

山頂から「カニのたてばい」の上部まで下りてくるとI番の鎖場「カニのよこばい」が見えて来た。
ここは急峻でとても細い岩棚に足を下ろしてトラバースしなければならないが、ここに下りてきた時には足を下ろす一歩目の足場を目視することができず、勇気のいるポイントだ。最初の一歩は見えない状態でその足場に右足を下ろさなければならず、下ろす距離が長くその足場になかなか届かずとても不安だ。下りる前に岩場に向かい合い、屈んで鎖の下をしっかり持ち、鎖に身をゆだねて、左足を残して右足を思いきり伸ばして岩棚の端に着地させます。恐怖を乗り越えてうまく足さえ下ろせればあとは難しくなく、横に張られた鎖を持ってカニ歩行でトラバースすればいいのです。


「カニのよこばい」を頑張って通過すると、次に高さのあるエキサイティングなステンレスの梯子が出現し、ここを下りると小さな廃屋(トイレ?)がある平蔵のコルになります。

 

ここからはJ番とK番の鎖場を通って平蔵の頭に登り、前剱の門からは鎖場の最後となるL番鎖場を通って前剱に向かった。前剱で小休止をとって、登って来たルートを振り返り、この先の下りのルートを見て確認した。

 

下山途中、前剱からの剱岳

 

 

これからは、もと来た道をひたすら下って行く。剣山荘まで岩稜帯の登山道が続くので気が抜けない。集中力が途切れてしまいそうだ。歩行中につまづきそうになった時やちょっと滑った時は「最後まで気を抜くな!」と言い合って、集中力を喚起し合いながら下った。目の前は立山連峰の絶景が広がっている。

一服剱からの前剱

 

 

無事に下山し小屋に着く(13:05)と、二泊目の部屋は八畳間に広くなっていた。ぼくらの登頂の成功を祝してくれているようだ。

早速、ジョッキーで祝杯を挙げた。(昨日は缶ビールと純米吟醸酒「剱岳」) そして宴は夕食後まで続き、赤ワインを飲みながら次の山行のいくつかのデザインが想い描かれた。

 

やったネ!

 

今日の登頂を最後の最後まで祝してくれているかのように、美しい夕焼けが五竜岳と鹿島槍ケ岳をバックに晩夏の空を染めた。皆シャワーを浴びて床についたが、ぼくは目覚めて真夜にキラキラ輝く星の数々を見るにつけ、明日下山してしまうのがもったいなく、予定を変更して登山を続けたいと一人思った。

夕焼け

 

 

 

【3日目】8/27

今朝は朝焼けがきれいだった。天気は下り坂のようだ。今日は下山するので、室堂に着くまでは天気はもってほしいと願った。
朝食は昨日と同じメニューだ。゙

今日は、剣山荘―剱澤小屋―剱沢キャンプ場―別山乗越―雷鳥平―みくりが温泉―室堂ターミナルのコースを歩くことにした。
剣山荘―別山乗越の間は来た時の岩稜帯のルートと違って、傾斜が均一で残雪もなく歩きやすいことからこのコースとした。

 

下山です


 

三戸さんが先導役になって剣山荘を5:50に出発し、ゆっくりとした足取りで剣沢キャンプ場に着くとラジオ体操第一・第二の双方の曲が流れ出し、立山一帯に響き渡った。仕掛人は野営場管理所のようで、テント泊の登山者に準備運動を促しているようだ。ようやく別山乗越に着いた。

別山乗越

 

 

別山乗越では老画家が剱御前小舎の前に陣取って、剱岳の油絵を描いていた。

雷鳥坂を下って行くと奥大日岳とその後ろに大日岳の山容が大きく見えている。室堂も見えている。

 

画伯と剱岳

 

 

雷鳥平に着くと室堂方面に続く長い長い整備された階段が見え、最後の試練と覚悟してこの階段を登ってみくりが温泉に寄った。入浴後、生ビールで互いの労をねぎらい乾杯だ! 

 ミクリガ池






入浴後、生ビールで互いの労をねぎらい乾杯だ! そしてバスの待つ室堂ターミナルに向かった。

バスは空席が多く、一人で2席を使ってゆったりとくつろぐことができた。

 

室堂から立山連峰&剱岳

バスが富山県内の国道に出ると、バスが横へ横へと連なって続いている北アルプス山系の山々に並走しているのに気づいた。そして、その山々が高い屏風を広げたように続いているその中に、昨日登頂した剱岳と立山連峰のシルエットを見つけた。そして、車窓からいつまでもそのシルエットを追っていると、剱岳山行が無事終わったことをあらためて実感した。ぼくたちはこの山行を共にして、苦しいことや過酷な局面を乗り越えて成し遂げて得た喜びや感動を共有しました。そして、皆が「お酒をこよなく愛し、小さなことを気にせず、平凡なことにあきたらず、人生を楽しみ心豊かに生きていらっしゃる」ことを知り、そうした皆様とこの山行を共にできたことを、とてもうれしく幸せに思っています。天候と仲間、そして運にも恵まれて、とても素敵な感動の山旅を楽しむことができました。感謝!

 感想文 

三戸さん

あこがれの剱岳、ついに夢が叶いました!!

思っていた通りの、或いはそれ以上に素晴らしい山でした!

カニのタテバイ、ヨコバイ、怖かったけれどチョッピリ面白かったです。(実は恐怖のあまり鮮明に覚えていないのです。(人間の防衛反応?)) 関山(GL)飯嶋(L)綺子さん福井さん、連れて行って頂き本当に有難うございました。

福井さん

12年前に行った剣岳は、ガスっていて、廻りの景色は全然見えませんでした。

今回は最高のお天気に恵まれて、360度の景観を楽しめました。ずっと怖いなと思っていたカニの横ばいも、今回はトップの飯嶋さんや私の前を歩いていた関山さんのリードでスムーズに行く事が出来ました。三戸さん、関山さんの一年間に渡る剣岳登頂にご一緒できた事を嬉しく思っています。」

飯嶋さん

3日間とも晴天の剱岳を登ることができて幸せをかみしめています。4月の古賀志山など関山さん、三戸さんの岩トレ山行に参加させていただき、岩場歩きの感覚を積み重ねてきた成果もあり、あまり不安を感じることなく岩場を歩くことができました。ありがとうございました。

綺子さん

剱岳は私の想い出深い、そして好きな山です。

20代最後の年に友と2人で登り、下山が遅れて職場で遭難騒ぎになったことを思い出します。

そして、10年前に再び登り、剱の素晴らしさに魅せられました。関山さん、三戸さんが1年かけて訓練山行等準備をして下さり、3度目の登頂ができました。ありがとうございました。

 

 


























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