中央アルプス越百山

日 時:2020.11.34
参加者:L佐藤、上野、得津(記録)
タイム:
113 中央西線南木曽駅800集合─(車)─906伊奈川ダム下923(登山開始)─934伊奈川ダム─1039駐車場(閉鎖中)─(林道あるき)─1140福栃平登山口─(急登)─1303下のコル─1410御岳見晴台─1511水場(水補給)─1645越百山(着)

114 400起床 越百山(発)540707越百山山頂を散策815900越百小屋でコーヒータイム9401040水場─1150上ノコル─1225下ノコル(昼食)─1328福栃平登山口─(林道あるき)─1444駐車場(閉鎖中)─1530伊奈川ダム下の駐車地点(登山終了) 恵那市のかんぽの宿「恵那」で入浴 1900JR中央西線恵那駅で解散

今年はコロナ禍で、様々な行動制限があって、三密を避けて動かない事が仕事でもプライベートでも暗黙のルールになっていて、旅行や登山に行くこと自体、どこか後ろめたさを感じていて、何となく、それを理由に春山も行かず、夏山も行かず、秋山も行かず、気が付けば、山とは無縁な巣ごもり生活が今の僕のニューノーマルとして定着しています。それでも毎週のようにLINEにアップされる山行写真を見ていると、改めて登山の素晴らしさを感じますし、今の日常を僕のニューノーマルにしてはいけないという気持ちになって来ます。このまま山に登らずに一年が終わるのかという焦りにも似た気持ちです。

そして、いよいよ高山では雪が積もる10月下旬になって、「山に行かなきゃ!」という気持ちになって、早速、佐藤さんと上野さんに連絡した次第です。佐藤さんには、自分の都合の良い日程だけを伝えて、山行計画をお願いしました。申し訳ないと思いつつ、忙しさを理由にいつも甘えている自分があります。 1週間後、佐藤さんから届いた山行計画は「中央アルプス南部 越百山〜南駒ケ岳縦走」でした。私が住む三重と佐藤さん達の住む東京との中間地点、アルプスの一角に登る素晴らしい山行計画だと思いました。 とは言え、何か月も登山をせず、アルプスの一角にそう簡単に登れる訳もありません。

せめて地元の藤原岳を登り、アルプス登山の足慣らしにしようと考えました。アルプス登山の10日前です。 藤原岳は標高1247mの花の百名山と言われ、地元で親しまれている山です。三重県では電車で登山口まで行ける数少ない山で、僕にとっては足慣らしとして適度な山です。しかし実際、登り始めると、すぐに体力の無さを実感する事になりました。それでも久しぶりに、この登りのしんどさを体感した事が、アルプス登山につながったのだと思いますが。

木曽路の妻籠宿・馬籠宿がすぐ近くにあるJR中央西線の南木曽駅で待ち合わせました。

113() 松阪から特急で名古屋に向かい、ワイドビューしなの1号で南木曽には8時に着きました。駅では既に佐藤さんと上野さんが待ってくれていました。佐藤さん達とは、2月に伊吹山に登って以来、約9か月ぶりの再会です。

僕たちは恵那で借りたレンタカーに乗り、登山口に向かいました。事前情報として登山口のある福栃平までの林道が一部崩壊していて通行止めとなっているため、僕たちは伊奈川ダム手前、標高950m地点の道路脇に車を駐車し、登山口までの約2.5qの林道をてくてくと歩くことになりました。しかしこの林道、登山口との標高差360mもあって、勾配のある登りが続きます。ここ数日、睡眠不足の僕は、体全体がだるく、よろよろとした足取りで足に全く力が入りませんでした。先を行く佐藤さんに少しずつ遅れてしまい、佐藤さんもこちらを気付かって歩く速度を合わせてくれていました。1時間程歩いて伊奈川ダム上駐車場に着いて、一先ずザックを下ろし小休憩しました。


予想以上に足取りの重い僕を見た佐藤さんから「ツエルト使える状態?」「今日は越百避難小屋には登らず、反対周りの南駒ヶ岳登山口にツエルトを張って、明日朝、荷物を軽くして南駒ヶ岳に登らないか?」との提案がありました。僕も正直、ここからさらに標高差1240mの越百避難小屋まで、この荷物を担いで日没まで登り切る自信が無かったですし、上野さんも「その方がいいよ、早めに休んで明日登ろう!」と言ってくださったので、僕は「そうしましょうか」と答えました。 当然、こう言うことも想定の範囲内では有りますが、一番若い僕が早々に何とも申し訳ない気持ちと、自分の体力の無さに情けない気持ちになりました。

そして「明日、風速20m前後の強風が吹くようで有れば、避難小屋からの標高差280mの越百山は登れるが、その先、南駒ヶ岳への縦走は、今の僕の体力ではむしろ難しいのではないかということ・・・。」を考えていました。

福栃平までの林道沿いの渓谷は美しい。

12時を過ぎて、ようやく福栃平登山口に着きました。僕は、佐藤さんに「寒気の中、ツエルトに不安があるし、予定通り、今日は避難小屋まで登って、明日天候次第で行動したいです。」「それに避難小屋であれば皆で一緒に食事も出来、楽しいです。」と歩きながら考えていたことを伝えました。

佐藤さんも上野さんも、少し顔色が良くなって来た僕を見て、「避難小屋まで、日没になってもヘッデン付けて登ればいい。18時までに着けば良いよ。じゃあ、ゆっくり登ろう!」と快諾してくださりました。そうと決まれば、ここから56時間、標高差1030m、ただひたすら登るのみである。重量ザックを背負っての登りは、一歩一歩踏み応えがあります。「しっかりと足で地面を踏み、足で体を持ち上げて登っていく・・・。この太ももに伝わってくるしんどさが登山である・・・!」と思えば、この苦しさも実に味わい深いものでした。「この苦しい感覚を足が覚えている!」先日、藤原岳に登ったことが、ここで活かされた訳です。しかし、先頭を行く佐藤さんの足取りは全くぶれていない。後を歩く上野さんに至っては、全く呼吸が乱れていない。「佐藤さん、そして上野さん、この人たちは一体何者!?本当にすごい!」と思います。

御嶽見晴台では薄っすらと御嶽が見えました。

僕は、ここから南駒ヶ岳登山口と越百避難小屋の分岐でもある福栃平までの1時間余りを歩きながら、色んな事を考えていました。

 「今日の深夜からこの冬一番の寒気が入ってくること・・・。明日は強風予報であること・・・。この寒気の中、手持ちのツエルトではやはり心もとないこと・・・。

出来れば今日、当初予定通り、越百避難小屋でゆっくり休みたいこと・・・。」 越百山に繋がる遠見尾根は、一言で言って地味です。晩秋の樹林の中、延々と登りが続きます。

しかも、この尾根は谷が深く、そして静か。岩を砕いて下流に運ぶ、真っ白い川の激流の音だけが、深い谷から聞こえていました。登り始めて4時間、16時になってようやく7合目に着くと、ここで初めて御岳を遠望する事が出来ました。

西側の谷に点在する集落がすっぽりと雲海に覆われ、雲海と青白い空との境目に御岳の白い頂稜部が顔を出していました。その御岳はすぐに雲に隠れ、手前の樹氷が風に吹かれてパラパラと音を立てて宙に舞いました。 御岳見晴台と名の付いた標高1985mから先は、稜線に近くなったせいか風が吹き、僕のウールの山シャツが、樹林帯の登りで放出した体温と山の冷気で冷たく濡れて固くなり、急に寒さと体の冷えを感じて、慌ててソフトシェルを着ました。

標高2400mを乗越、明るいうちに越百小屋に着けそうとほっとする二人。

 

7合目を過ぎても、ひたすら登りが続きます。

「この山、登るなあ〜!」と何度も声を出して、自分自身を励ましました。

 途中の水場で給水し、さらに1時間程登った今日の最高地点2400mのピークから60m下ると、ようやく木々の隙間から、赤い屋根の超百避難小屋が見えて来ました。「見えたよ〜!」

簡素な感じの越百小屋です。見た目よりも内部は快適です。

歩き始めて7時間半、夕暮れ迫る1640分にやっと避難小屋に着きました。避難小屋の庭先には、西日が射し込み、陽だまりが出来ていました。

ここは山に囲まれ鞍部に出来た天空の広場で、正面には南駒ヶ岳に続く北沢尾根の厳しい稜線が見えていました。

小屋の内部は、小さいけど小綺麗で、男三人でも充分なスペースが確保出来ました。陽が落ちると、この冬一番の寒気の影響も有って、小屋内が冷え込みました。濡れたウールのシャツと靴下は冷たいままで、体が温まるのに時間が掛かりました。佐藤さんが部屋の中にあった椅子の下にガスバーナーを置き、椅子の上からツエルトで覆うと簡単なこたつが出来、冷えた体を温めるのに役立った。




114
天気予報通り、屋根の上をひゅうひゅう舞う風の音と、ガラス窓をガタガタと煽る音が夜通し聞こえていました。夜中、佐藤さんは珍しく寒いと言って、なかなか寝付けないのか、最後はツエルトに包まって寝ていました。夜中に鼾が聞こえたので、2、3時間は眠れたのでしょうか。上野さんは、2〜3時間置きに用を足しに外に出ていました。目が覚めてしまったのか3時頃から寝袋やマットを片づけていました。起床は4時ですが、僕はこのまま眠っていたいと思っていました。

早朝の越百小屋前は夜少し雪が降り真っ白でした。

外から戻って来た佐藤さんが「雪が積もっているね。まあでも大丈夫だと思うけどね。」

佐藤さんは「越百山まで登って見て、南駒ヶ岳はその時の状況次第だなあ・・・」と上野さんと話していました。僕は内心、「強風の中、凍った上に雪の付いたあの南駒ヶ岳の岩稜を歩くのは嫌だな・・・」と思っていました。
 朝食はそれぞれが用意した食料で簡単に済ませました。佐藤さんは、熱々のカレールーとコンビニで買ったおにぎりで即席のカレーライス。大きめのタッパいっぱい詰め込んだ重量級のご飯を食べるのが佐藤流。元気の源です。上野さんは、いつもスポーツ店で買ってきた高価な山食を食べる。即席だけど本格的なリゾットや炊き込みご飯、山でグルメを楽しむのが上野流。さすがトレンドに敏感です。僕は、納豆とかつお節、レトルトのおかゆに昆布とお茶を注いただけの質素な食事。出来るだけシンプルにしたいのが僕流です。

霧氷の樹林の中を越百山山頂を目指しました。



僕たちは、一晩お世話になった部屋の掃除を終え、6時前に小屋を出ました。小屋から出て見ると風は収まっていました。しかし山の稜線はどうか。ヘッドライトを点した足元には、昨夜降った雪が、登山道に薄っすらと残っていました。次第に空が明るくなって来ると周囲の山の輪郭がはっきりとし、越百山頂上付近とそれに続く稜線が見えていた。 
中央アルプスの一角、越百山山頂で記念撮影
7時過ぎ、越百山山頂に着くと、山頂碑が朝陽に照らされ美しかった。風は思った程、強く無く、昨夜の降った雪は草木や岩の隙間に残っていました。東の谷から雲が湧き立ち、風で飛ばされて行くと下界の集落が見えていましたが、南駒ヶ岳方面はすっぽりと雲で覆われたままでした。
越百山を仙崖嶺に向かって歩いたところでゆっくり時間をとり景色を堪能しました。

佐藤さんが「ここから南駒ヶ岳まで34時間。さらに下山に+5〜6時間かかる。この先の状況が見えない中、時間的にも無理はしない方が良いよ」という判断をし、僕たちは南駒ヶ岳には行かず、少し先のちょっと下った所で休憩する事にしました。


少し下ると、越百山と南駒ヶ岳が見渡せる平地があった。するとさっきまで北側の山々を隠していた雲が東に移動すると、朝陽を受け、岩肌の雪がピンク色に輝いた南駒ヶ岳と仙涯嶺の雄姿が顔を出しました。南
駒ヶ岳は、手前の深い谷から一気に立ち上がった大きな山塊でした。その南駒ヶ岳の肩の背後には空木岳に続く主脈縦走路がわずかに遠望する事が出来、中央アルプスのスケールの大きさを実感する事が出来ました。
待っている間に雲が取れて来ました。

南駒ヶ岳への縦走路は、ここから一旦大きく下って仙涯嶺まで登り返し、そしてまた下って南駒ヶ岳の最高地点までの急峻な岩尾根を登り返していました。そして手前の谷を隔てた正面の北沢尾根に回り込んで、岩場の登下降を繰り返しながら下って行くという今回計画していたルートを目で辿り、この縦走はそう簡単では無い事ではないと思いました。

刻々と変化する山岳景観に、上野さんと僕はこの一瞬を逃さないように写真を取り合いました。南駒ヶ岳をバックに上野さんの両手と足を拡げて、片足立ちする、決めポーズも絵になっている!

風のない、越百小屋の陽だまりでゆっくりコーヒータイムを過ごしました。

8時、越百山避難小屋に戻って来た。

避難小屋の庭先には、やっぱり陽だまりが出来ていた。佐藤さんが、ザックからガスを取り出し、僕たちに一杯の珈琲を作ってくれました。

そして手作りのチョコレートケーキを出してくださりました。しかもこのケーキ、ブランデーの香りがして美味しいの、何のって! 佐藤さんがしみじみと「誰も居ない山の上で、こうやって陽だまりで珈琲を飲むのが好きだ」と言ったので、上野さんも僕も本当にその通りだと思いました。 僕たち男三人、ぽつんと山の一軒家の庭先で、本当に至極の時間を味わいました。

他愛ない話の中、上野さんがスマホ操作しようと時、専用ペンが無いことに気付きました!「あれっ、ペンが無いよ!」僕は、上野さんが昨日の登りで落としたスマホのペンを拾って、ずっと隠し持っていました。僕は笑いを堪えながら、何でもない顔をして隠し持っていたペンを取出しました。それを見た上野さんは「あっ、これ俺の?どこにあったの?」と真顔で言って来たので、僕はもう笑うのを我慢できずに、「道端に落ちていましたよ。上野さん、落とした事に気付かないから、僕がこっそり拾って持っていたのですよ」と大笑いしました。 (でも僕のいたずらが過ぎて、ペン先のバネが取れてしまいました。ごめんなさい。)

帰路の伊奈川ダム湖は金色に染まっていました。

さあ、これから下山です。登った分だけ降りなければなりません。登りの苦しさの事を思えば、体力的には楽なのですが、一部、崖になった急な下りでは落ち葉に足を滑らさないように気を付けて下りました。ゆっくりのんびり下ったため、車を駐車している伊奈川ダムの入口に着いたのは、既に16時を過ぎていました。下山後は、恵那まで戻り、かんぽの湯で冷えた体と疲れを癒して、それぞれの帰路着きました。

今回の山行は、当初計画の南駒ヶ岳まで縦走したい気持ちも少しは有りましたが、今の私の体力と経験では越百山往復が適切だったと思います。なぜなら私自身、登山が遠のき、登山で必要な事柄を多々、忘れていたからです。

佐藤さんと上野さんと一緒に中央アルプスの山頂に立った事で、僕にとっては、この時季の登山の難しさとそれに対する準備、そして何より魅力を改めて再確認する事が出来た山行となりました。来年秋、また一緒にここを訪れ、南駒ヶ岳〜空木岳を縦走してみたいなと思っています。佐藤さん、上野さん、ありがとうございました!(記録 得津)

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